新しい生活様式と難聴
新型コロナウイルス感染対策のため、新しい生活様式への移行が進められる中、耳の遠い方(難聴者)との接し方も考えていく必要があります。
たとえば難聴者との会話で、次第に大声になったり、耳のそばで話しかけたり、同じことを伝わるまで繰り返し言ったりしたことは、どなたにも経験があるかと思います。
それらはいずれも、飛沫が飛びやすい、距離が近い、会話が長くなる、といったように新しい生活様式にはそぐわないものといえます。
特に高齢者は、加齢性の難聴によってそうした感染する危険性の高い状況になりやすいうえ、感染した場合に重症化しやすいとされているため、今後は万が一の場合を考えた対応が求められてくるでしょう。
また、「近づいて大声で話してもらえば分かる」とおっしゃる難聴者も少なくないですが、これからの生活では、近づくのも大声を出すのも控えるのが望ましいとされています。
ご自宅はまだしも、病院や大型店舗などの多くの人が集まる場所では、周りに遠慮しなければならない場面も出てくるでしょう。
これは難聴のご本人様だけでなく、ご家族や施設の従業員など他の方の負担にも繋がります。
そして、新しい生活様式の中でもうひとつ、難聴者にとって影響の大きいものが、マスクの着用です。
難聴者の中には、口の動きを見て言葉の理解を補っている方がおり、そうした方はマスクで口元を隠されてしまうと、何と言っているかの判断が難しくなってしまいます。
そうした方に正確に言葉を伝えるには、声だけでも意味が分かるようにするか、筆談などに頼る必要があります。
もちろん、会話の際の飛沫防止のためのマスクですから、話が伝わらないからと途中でマスクを外してしまうようでは意味がありません。
口元が隠れる以外にも、マスクを着けた状態では声が小さく不明瞭になるため、特に加齢性の難聴がある高齢者にとっては聞き取りにくく感じられます。
一般的には「あいうえお」といった母音部分については影響は少ないですが、「か」と「さ」のような子音部分の判別が難しくなります。
たとえば「加藤さん」と「佐藤さん」を聞き間違えるといったぐあいです。
大きな声ではっきりと発音すれば改善する場合もありますが、それでもマスクがない状態に比べれば聞き取りにくいでしょう。
マスクをしていなければ普通に会話を聞き取れるような軽度難聴の方の場合は、今後は誰もがマスクをしているために、聞き取りづらい場面が増えるかもしれませんし、それを外してもらうのも気が引けるかと思います。
このように、ウイルス感染対策のための新しい生活様式は、難聴者との接し方に様々な影響を及ぼしますので、ご自身やご家族の方の聞こえの不便さを再認識して、それを解消するための方法を考えるいい機会かもしれません。
そのひとつとして、補聴器の装用を検討されるのも方法ではないでしょうか。
補聴器は文字通り「聞こえを補う機械」であり、自分の耳の代わりをするのではなく、衰えた耳の機能を補助して健常な状態に近づけるための道具です。
もし補聴器を装用することで普通に会話ができるようになったり、そこまでいかなくとも聞き返しや聞き間違いが減って意思疎通にかかる時間や負担が減れば、生活の質の向上につながります。
補聴器は、聞こえを通じた生活の質を改善するのに役立ちます。
ありがちなことですが、普通に話すのでは聞き取りが難しく、声を大きくしてもらうなどの方法で補っているのは、すでに健常な状態ではなく生活の一部が難聴によって不便になっている状態といえます。
特に加齢による難聴は、我慢していれば改善されるものではなく、むしろ聞こえづらい環境に慣れてしまうことで聴覚の衰えが進み、難聴が悪化してから補聴器を装用しても十分な聞こえを得られない場合があります。
また、難聴が加齢性のものではなく、病気などが原因である場合、治療の遅れにつながる場合もありますし、耳垢栓塞(耳垢の詰まり)が原因の難聴もありますので、聞こえが悪くなってきたのなら、まずは耳鼻咽喉科専門医を受診するのがよいでしょう。
また、補聴器に関心があるのなら、耳鼻咽喉科専門医の中でも補聴器相談医に相談されるのがいいでしょう。専門的な知識を持っており、認定補聴器専門店と連携して適切なケアをしてくれます。
新型コロナウイルスの流行はここ最近は落ち着きつつありますが、新しい生活様式はこれからの標準になっていくでしょう。その中で難聴によって不便や我慢を強いられないためにも、対策を考えていきたいものですね。